「つながりと変化」 慎さんのこと。 ひきこもり、きっかけ、就職、ひとり暮らし。彼と白梅会との、つながりと変化の記述。

◎プロフィール 慎 さん

1976年、東京都府中市生まれ。府中市育ち。

◎白梅会とのつながり
  • 2015年(39歳) 「童里夢工房」に入所し、倉庫内作業や清掃作業を経験。
  • 2016年(40歳) 「レスポワール工房」に入所し、就労訓練を経験して、某大手スーパーへ就職。
  • 2018年(42歳) 「グループホームみち」に入居し、働きながら、ひとり暮らしを目指す。
◎お話を伺った日 2020年12月2日

ひきこもり、きっかけ、就職。そして、自立へ。大丈夫、動いてみると良いよ。

––––– 今日は、よろしくお願いします。

慎さん こちらこそ、よろしくお願いします。

––––– まず、簡単に自己紹介をお願いできますか。

慎さん 1976年生まれの44歳です。府中で生まれ、府中で育ちました。趣味は、甥っ子や姪っ子と遊ぶこと。座右の銘は「為せば成る」、「習うより慣れよ」です。

––––– 慎さんらしい座右の銘ですね。
それでは、慎さんが実際に体験したことから訊かせてください。
白梅会で最初につながったところはどこですか。

慎さん 「童里夢工房」が最初です。「童里夢工房」に入る前、僕は「ひきこもり」でした。15年くらい。長い時間ですよね、15年って。でも、当時の事はあまり覚えていません。

––––– そうなんですね。15年、とても長い時間ですね。
最初の「童里夢工房」には、どういう経緯でつながったのですか。

慎さん 家族に促され、ハローワークに行きました。そのハローワークの窓口で「ちょうふ若者サポートステーション」を紹介されました。そこで相談したところ、精神科への受診と府中市の就労支援センター「み~な」への登録を勧められました。
そして、就労支援センター「み~な」で、就職する前準備として「童里夢工房」に通うことを提案されて、見学に行ったのが「白梅会」につながった最初です。

––––– 「ひきこもり」から、いろんな初めての場所へ行かれたのですね。不安などはありませんでしたか。

慎さん 不安はもちろんありました。だけど、知り合いや職員の方が同行してくれたりして、とても助かりました。
「童里夢工房」では、作業を集中してやっていると、段々と他の利用者さんや職員の皆さんに受け入れられているというか、ここにいても良いのかと思えるようになっていきました。

––––– 「童里夢工房」ではどんなことをやって、どんなことが良かったですか。

慎さん (今は梅の木の家共同作業所でやっている)物流会社での倉庫内作業や福祉施設の清掃作業をやっていました。
倉庫内作業では一般のパートの方と同じ仕事をしていたし、清掃作業ではトイレをきれいにするとすごく気持ちが良くなることに気付けました。
そういうことを通して、仕事の感覚というか、社会でやっていく精神みたいなものを養うことができたと思います。

「つながりと変化」 慎さんと菅井職員(童里夢工房の庭)

慎さんと菅井職員(童里夢工房の庭)

––––– 「童里夢工房」の菅井職員の印象は?

慎さん よく働くアウトドア好きの優しくて面白い男ですね(笑)。

––––– そんな「童里夢工房」から就労へのステップとして、「レスポワール工房」に移られたのですね。

慎さん はい。障がい者雇用での就労を目指し、同じ白梅会の「レスポワール工房」に移りました。

––––– 「レスポワール工房」ではどんなサポートを受けられたのですか。

慎さん 仕事を続けていく上での自分の特性や困った時の対処をまとめたり、履歴書の添削・面接への同行もしていただきました。ひとりでは、難しかったと思います。とても心強かったですよ。

––––– 慎さんにとって、障がい者雇用とはどういうものですか。

慎さん 一般雇用の選択肢も考えましたが、自分のことを理解してもらえる職場や雇用形態じゃないと続かないと考えて、障がい者雇用を選択しました。就職することが目標じゃなくて、就職して働き続けることが目標だったので。障がい者雇用は、数ある働き方のひとつですかね。

––––– 就職して、もう4年が過ぎましたね。目標通り、長く働けていますね。
仕事内容は、どのようなものですか。職場で困ったことなどは、ありませんか。

慎さん 野菜売り場で働いていて、品出しや商品のカット、お客様対応などです。クレームを言われることもあるし、ずっと立っている仕事だし、とても疲れます。でも、お客様対応した後に「ありがとう」と言われると、すごくうれしいですね。それは4年経っても変わらないかな。
今は就労支援センター「み~な」のサポートを受けていて、仕事のことで困ったことがあったら相談しています。

「つながりと変化」 慎さんと水越職員(レスポワール工房内)

慎さんと水越職員(レスポワール工房内)

––––– 「レスポワール工房」の水越職員の印象は?

慎さん 働くお母さん、肝っ玉母ちゃん。笑顔がとても良いですね。

––––– 働いて2年が過ぎた頃に、「グループホームみち」に入居されましたね。きっかけは、どのようなことでしたか。

慎さん 前々からひとり暮らしを希望していました。就労支援センター「み~な」からグループホームに空きが出たという情報をもらって、入居に至りました。

––––– 「グループホームみち」では、今どんな生活をされていますか。

慎さん 普段は、朝早く出勤して帰ったらご飯を食べて寝る、という感じですね。グループホームの交流室には、たまに顔を出して、他の利用者さんと話したり、困ったことがあったら職員さんに相談したりしています。最近、僕には特殊なメガネが必要だということがわかって、今そのサポートをしてもらっています。

––––– 慎さんに合うメガネができると良いですね。
「グループホームみち」に住んで2年が経ちましたが、住む前と後で、何が変わりましたか。

慎さん トイレ掃除をよくするようになりましたね。トイレがきれいだと気持ちが良いです。童里夢工房で培ったことが、グループホームで活かされているのかも知れませんね(笑)。
あとは、親元から離れて嬉しかった。もちろん初めてのひとり暮らしで不安だったけど、グループホームには何かあったら相談できる職員さんがいるので、安心でしたよ。

「つながりと変化」 慎さんと江里口職員(グループホーム交流室前)

慎さんと江里口職員(グループホーム交流室前)

––––– 「グループホームみち」の江里口職員の印象は?

慎さん チャキチャキした元気な人。頭が良さそうな司令官みたいな感じ(笑)。

––––– 白梅会には、多種多様な職員がいますよね(笑)。そんな職員たちが、皆さんの生きづらさのような部分もサポートさせて頂いているのですが、慎さんにとって「障がい」ってなんだと思いますか。

慎さん 個性だと思います。それぞれの個性のひとつ。

––––– 慎さんの個性って、なんですか。

慎さん 初めての場所や人と会うこと、乗り物に乗ることなどに、とても大きな不安がのしかかります。だから、何かを始めることや相談することが簡単にはできなくて、自分で抱えて孤立を選んでしまう傾向があります。
でも、今は少しずつですけど、いろんな人とつながれている気がします。

––––– そうですね。あの15年から少しずつ、慎さんがつなげてきた人たちですね。
慎さんは、これからどんなことをしていきたいですか。

慎さん いつか車を買いたいですね(笑)。でもまずは、安定した生活を送って、長く仕事が続けられるようにしていきたいかな。今していることを続けていきたいですね。

––––– そうですね。大切なことですね。
最後になりますが、慎さんにとって「白梅会」ってどんなところですか。

慎さん 助けてもらっているというか、んー「よりかかれる存在」という感じですかねぇ。

––––– とても良い言葉で表現していただいて、ありがとうございます。
では、これでインタビューは終わります。今日は、本当にありがとうございました。
最後の最後に「ひきこもっていた自分」に一言あれば。

慎さん 「ひきこもり」も悪いわけではない。でも、今の方が幸せかな。
そんなにすごくはないけど、僕には少しの体力やちょっとした能力はあった。そして、ふとしたキッカケで、今があるのかなと思うし、そのキッカケは案外近くにあると思う。
だから、あのときの自分には「いろいろ怖いだろうけど、親切な人もいるから、まぁ大丈夫だから、動いてみると良いよ」とか言うかな。

あとがき

誰かの「よりかかれる存在」が、誰かの選択肢のひとつになれるように。

今回、写真撮影をして、改めて「慎さんは良い笑顔するなぁ」と思いました。
彼にインタビューを受けて欲しいとお願いした時、「いいですよ」と引き受けてくれた、その声や表情には、いろんなものが含まれていたように感じます。普段、多くを語らない彼は、言葉以外の表現でも何かを伝えようとしているような気がします。インタビューの言葉だけではなく、写真からも何かを感じてもらえたら、と思っています。
彼が白梅会とつながって、5年。「よりかかれる存在」と表現してくれた私たち白梅会は、動いてみようと思った方々の選択肢のひとつとなれるように、これからも少しずつ色んなことを発信し続けたいと思います。
慎さん、ありがとうございました。

聞き手: 川口 洋平